Kaggleで広がる可能性!企業で活躍するGrandmasterたちのホンネトーク

この記事のポイント
- 異色の経歴に学ぶ: 文系・公務員出身でもトップKagglerに!多様なバックグラウンドからのキャリアパスが具体的に語られる。
- スキルの磨き方がわかる: 実際にGrand masterになるまでのそれぞれの道のり・仲間との協力方法・学習方法がわかる。
- 今すぐ始められるヒント満載: 「AIに興味あるけど何からやれば?」という疑問に、Kaggleを活用した一歩目の答えがある。

富田 晃弘
株式会社 PKSHA Technology
- リードアルゴリズムエンジニア
東京大学 法学部 → ミシガン大学MBA(Data Science) 日本銀行(日本経済担当・金融政策担当部署のエコノミスト)を経てPKSHA Technologyに参画。 PKSHAでは、マーケティング最適化モデル・需要予測モデルなどの開発を担当。金融業・小売業を中心に幅広いソリューションに関わる他、AI SaaSのアルゴリズム開発もリード。

村田 秀樹
カレーちゃん
北海道大学理学部 → 公務員(税務署、財務省など) 財務省を退職し、専業Kagglerとして活動後、データサイエンティストとして電通デジタルへ参画。 電通デジタルでは、広告配信の予測モデルの作成や、画像生成の研究などを業務として行う。 「面倒なことはChatGPTにやらせよう」「Kaggleのチュートリアル (Kindle)」等の著書を通じて生成AIやKaggleの魅力を発信中
summary
データサイエンスの腕を競う世界的なプラットフォーム、Kaggle。そこで頂点を極めたGrandmasterたちは、その卓越したスキルをどのようにキャリアに活かしているのでしょうか。
本セッションでは、Kaggleでの深い取り組みを経て、現在企業のAI・データサイエンス領域で中核的な役割を担う2名のゲスト、株式会社PKSHA Technologyの富田 晃弘氏と、電通デジタルの村田 秀樹氏(カレーちゃん)をお迎えし、Kaggleとの出会いから、スキル習得の道のり、そして社会実装の最前線での活躍について、本音で語っていただきました。
Kaggleとの出会い
カレーちゃん
財務省勤務時代、長時間労働に疑問を感じる中で、以前から興味のあった競馬AI開発に着手。データ収集と機械学習の難しさに直面する中、友人からKaggleを勧められたことが転機に。数学好きの自身にとって、ゲーム感覚で取り組めるKaggleに没頭し、専業Kagglerとなる道を選びました。
富田氏
MBA留学中にビジネスへのデータサイエンス応用に関心を持ち、PKSHA Technology入社後にKaggleを始めました。周囲の優秀な理系出身者へのコンプレックスをバネに、自己研鑽のためにKaggleに挑戦。同僚と共に切磋琢磨する中で、スキルを磨きました。
Grandmasterへの道:スキル習得の軌跡と秘訣
カレーちゃん
専業Kagglerとして約2年間活動し、金メダルを3個獲得。その後、電通デジタル入社後もKaggleに取り組み、約2年かけて残りの2個を獲得。計4年間の道のりでした。モチベーション維持は非常に重要で、SNSでの交流や仲間との繋がりが継続の鍵となりました。
富田氏
Kaggle本格参戦から約1年半でGrandmasterに到達。最初のコンペで金メダル獲得を皮切りに、社内のKaggler仲間とのチームワークで複数回の金メダルを獲得。ソロでの挑戦も経て、Grandmasterの称号を手にしました。良いチームを組むこと、コミュニティの知見を積極的に吸収することが重要だと思います。
スキル向上においては、カレーちゃんはコンペへの積極的な参加と徹底的な復習を、富田氏は集中的な時間投資とチームでの協働、そしてKaggleコミュニティからの学びを重視していました。
現在の仕事内容とKaggle経験の活かし方
カレーちゃん
機械学習モデル開発において、Kaggleで培った高速なモデル実装力や精度検証のスキルが強みとなっています。特に、精度をどのように測るかという点は、Kaggle経験者ならではの強みであり、プロダクト開発においても重要な視点となっています。自身の得意分野を持つことで、チームへの貢献もスムーズになります。
富田氏
現在はマネージャー職が中心ですが、Kaggleで培った「What to Optimize(何を最適化するか)」というビジネス視点と、「How to Optimize(どう最適化するか)」という技術的視点の両輪が、顧客へのソリューション提案やプロダクト開発のアルゴリズム設計に活かされています。特に、新しい技術への挑戦意欲、実装スピード、そして精度向上へのセンスは、Kaggle経験によって磨かれたと実感しています。
両名ともに、Kaggleでの経験が、アイデアの発想力、実験力、そして何よりも「精度を追求する」というマインドセットを養う上で大きく貢献していると語りました。
社会実装の最前線:Kaggleと実務のギャップ
富田氏
クレジットカード不正検知のような精度が直接成果に繋がるケースもある一方、不登校予測や保険業界向けAIチャットボットのような事例では、AIの説明可能性、利用者の使いやすさ(UI/UX)、そしてAIの誤りを人間が検知できる仕組みなどが重要になります。Kaggleのような精度至上主義とは異なる、実務ならではの課題が存在します。
カレーちゃん
クライアントの課題を深く理解し、AIで解決すべき問題なのか、他の手段で解決すべきなのかを見極める能力が重要です。AI開発だけでなく、課題発見から解決策の全体設計まで、人間が主導すべき領域は依然として大きいと思います。
本セッションをまとめると、ビジネス視点、コミュニケーション能力、そして倫理的な配慮といった、Kaggleだけでは得られないスキルが社会実装においては不可欠である。一方でKaggleを通じてスキルを磨くことや、そこで得られる仲間や学びについてはビジネスに応用できるため、まずはチャレンジしてみることが大切であることが重要でもあります。
q&a
Q1
数学科所属なのですが、具体的にKaggleの中で活きた部分について教えていただきたいです。
(カレーちゃん) 論文を読むと数式がたくさんあり、当然役立つは役立つのですが、どちらかというと、結果の解釈で、統計と確率統計が結構役に立つと思っています。例えば、「実験をして良い結果がでたときに、統計学的に考えるとどうなのか」偶然かどうかを俯瞰して考えるところなどに、役立ったと感じています。確率や統計の特に考え方がKaggleでは活かされます。
Q2
Kaggleをどのように始めたらよいですか?おすすめのルートを教えてください。
(カレーちゃん) 確かに結構難しいですよね。私の書いた「Kaggleスタートブック」「Kaggleのチュートリアル」等の書籍からはじめ、タイタニックというコンペに取り組んでいただき、LLMや画像がやりたい場合はGoogle Colaboratoryなど無料ツールで実際に手を動かしてみるところから進んでいただき、興味が明確になったらKaggleコンペに挑戦するのがおすすめです。 (富田さん) 効果的なステップアップ方法は、まずKaggle本を買い基礎を学び、取り組みやすい国内コンペ「SIGNATE」から始めるのがいいと思っています。そして、Weekly Kaggle Newsという日本語のメルマガにサブスクライブし、自分の専門分野に近いコンペに出てみるということかなと思います。生成AIを活用しながら、銀メダルを目指し、さらに友達を誘うと後に引けなくなるのでモチベーションを維持するのがおすすめです。
Q3
キャリアという意味で、Kaggleが具体的にどう活きたか、実際のエピソードがありましたら伺いたいです。
(カレーちゃん) 私は専業Kagglerをやっていた時、実務未経験のKaggle Masterだったのですが、中途採用で4社中3社から内定をもらいました。未経験であっても内定がもらえたので、すごく活きたと感じています。また、転職の際にはXで、Kaggle Grandmasterと発信していたら「うちの話聞きに行きませんか」といったお声がけがありました。転職という意味でも、とても役に立っています。 (富田さん) カレーちゃんさんがおっしゃっていたように、新しい機会を掴むという意味でもとても活きると思います。社内の話になるのですが、私のような異なるバックグラウンドを持つ方は難しいプロジェクトはそう簡単に取りに行けません。でも、Kaggle Grandmasterとなると「この人はどの領域でも、難しいところでもチャレンジできるんだろう」となり、チャンスがかなり増えたと思っていますね。難易度の高いマーケティングや、まだ世の中に出たばかりの生成AIに関連するプロジェクトなど、手を挙げればその機会が与えられました。それもやはり「Kaggle Grandmasterだからできるだろう」と社内から信頼を勝ち得たところはあるかなと思っています。社外に出て新しいチャレンジをすることのみならず、社内でも一目を置かれると思うので、キャリア上のメリットは大きいと思います。
Q4
コンテストの経験を積む目的など、Kaggle以外の別のサイトのコンテンツを利用しましたか?
(カレーちゃん) 私もSIGNATEという日本のサイトも利用しております。また、特におすすめは、atmaCupという大阪にあるatma株式会社が行っているコンテストです。とても質が高く、たしか3年半に1回ほど開催されると思うのですが、そちらに参加するとKaggle並みか、それ以上に情報共有が盛んなので、atmaCupの利用もおすすめです。 (富田さん) 産業に近い話ですと、学会のコンテストというものがあります。例えば、KDDCupやレクシスチャレンジというのがあります。実際に私も昨年、レクシスチャレンジに参加し3位になり、論文を書いてその学会で実際に発表する機会がありました。特に自分のドメインが決まっていて且つ、その学会がコンテストを開いてるという場合は、参加してみるとアカデミックな意味でアチーブメントも取れるため、おすすめです。
Q5
Kaggleを注目/推奨してる会社とそうでない会社は、どういうところに違いがあると思いますか?
(カレーちゃん) エンジニアの成長に価値を置いている会社がKaggleを推奨する傾向があります。エンジニアに業務時間の一定割合(例:10%)をKaggleに使うことを認め、最新技術をキャッチアップしてもらうことで、最終的に会社にも技術が還元されると考える会社は、エンジニアを大切にしている証拠です。 (富田さん) Kaggleを重視する企業は、エンジニアの技術力をビジネスの核心と考えています。一方、あまり重視しない企業は、技術よりもマーケティングや営業で成果を出す戦略です。エンジニアとしての成長を目指すなら、技術力が会社の成功に直結する環境で働くことをお勧めします。
Q6
エンジニアのスキルアップとして、KaggleとAtCoderが上げられると思うのですが、エンジニア就活や将来のために行うものとしてはどちらが適切でしょうか?
(カレーちゃん) どちらが適切かという答えはありません。KaggleはKaggleの評価、AtCoderはAtCoderの評価があります。機械学習に興味があればKaggle、アルゴリズムや最適化に興味があればAtCoderと、自分の興味や将来のキャリアプランに合わせて選ぶべきです。 (富田さん) データサイエンティスト寄りの方にはKaggleが相性が良く、厳密な最適化や計算効率を追求したい方はAtCoderが向いています。最近は、生成AIの発展により両方とも良い環境になっているので大きな差はなく、自分が最も熱量高く取り組める方を選ぶのが良いでしょう。
Q7
新卒入社でのKaggle経験とGrandmasterはどれくらい評価される?
(カレーちゃん) 会社によって評価は大きく異なります。Grandmasterを非常に高く評価する会社もあれば、ほとんど評価しない会社もあります。銅メダルでもある程度の能力として評価してくれる会社もあるので、会社次第と考えておくべきです。 (富田さん) コンピューターサイエンスのバックグラウンドがない方でも、AIに挑戦しているという行動力の証明として評価されます。Grandmasterであれば技術面で落ちることはほぼないでしょう。
Q8
AIに移行が難しい部分や人間がやるべき部分はある?
(カレーちゃん) クライアントの課題を理解し、どのようなAIを作るべきか決定する部分が最も難しいです。人々とのコミュニケーションを通じて問題点を特定し、それがAIで解決すべき問題なのか、別のアプローチが必要なのかを判断する全体的な設計部分は、現状では人間が担当すべき領域です。 (富田さん) 定量的に測れるタスク(正解/不正解が明確なもの)はAIとの相性が良いですが、定性的な判断を要するタスクはAIの評価が難しい傾向があります。また、タスクの自動化はAIに任せられても「責任の自動化」はできません。間違いが許されない場面では、AIが100%正確である保証がないため、業務運用やシステム設計で人間のチェックを組み込みながら、AIのメリットを最大化する方法を模索する必要があります。