Sakana AIのKaggle Grandmasterが語るAI人材のキャリア

Sakana AIのKaggle Grandmasterが語るAI人材のキャリア

この記事のポイント

  • 薬学というAIとは全く異なる分野からSakanaAIのリサーチエンジニアに転身できた秘訣が分かる
  • SakanaAIでの実際の働き方が分かる
  • 日本と海外のビックテックの違いやSakanaAIの独自性が分かる
井ノ上 雄一

井ノ上 雄一

Sakana AI株式会社

京都大学で博士号(薬科学)を取得後、1人目の社員として創業期のスタートアップに入社。2年半の研究開発を経て、2024年5月にSakana AIへ。現在はResearch Engineerとして研究に従事。Kaggleでは最高位のCompetition Grandmasterの称号を持つ。

summary

AI分野は日進月歩で進化を続け、その可能性は広がるばかりです。本セッションでは、AI研究の最前線を走るSakana AIに所属し、データサイエンスの国際的なコンペティションプラットフォームであるKaggleで優秀な成績を収めたKaggle Grandmasterの井ノ上 雄一氏(以下、いのいち氏)を迎え、AI人材のキャリアパスについて深く掘り下げました。

薬学部出身という異色の経歴、学部・修士・博士課程で細胞生物学を専攻。研究生活を送る中でデータサイエンスに魅了され、Kaggleに挑戦しGrandmasterの称号を獲得しました。その後、自動運転スタートアップを経て、現在はSakana AIでリサーチエンジニアとして、革新的なAI研究に取り組んでいます。

セッションハイライト

異分野からの挑戦:薬学からAIへ

AI分野に足を踏み入れたきっかけは、博士課程進学の費用を稼ぎたいという現実的な動機でした。当時注目を集めていたディープラーニングや画像認識に可能性を感じ、AIエンジニアのインターンシップに参加。そこでAIの面白さに触れ、データサイエンスの世界に深く傾倒していきました。

異なる分野を渡り歩く:AI、自動運転、そしてSakana AI

AI分野に飛び込んだ後も、いのいち氏は常に新しい領域に挑戦し続けてきました。自動運転スタートアップでは、AIを活用したプロトタイプ開発に尽力。そして現在所属するSakana AIでは、進化するAIモデルのマージ(統合)など、ユニークなアプローチで最先端の研究に取り組んでいます。

Sakana AIという舞台:グローバルな視点と研究への情熱

Sakana AIは、著名なAI研究者であるデイビッド・ハー氏やライアン・ジョンズ氏らが設立した、東京を拠点とするAI研究企業です。いのいち氏は、世界中から集まった優秀な研究者たちと、グローバルな視点を持って研究に没頭できる環境に魅力を感じています。従来のAI開発とは異なる、進化的なモデルマージなどの独自技術で注目を集めており、基礎研究から面白い発見を目指すという企業文化が特徴です。

AI人材のキャリアを深掘る

Sakana AIと海外ビッグテックの違い

Sakana AIは、創業者の強力なリーダーシップと、世界レベルの研究者が集まるグローバルなコミュニティが強み。大規模な計算資源に頼るのではなく、ユニークな技術開発に注力する点が、海外のビッグテックやスタートアップとは異なるアプローチです。

異分野への挑戦

新しい分野に飛び込む際は、「とにかくやってみる」という姿勢が重要です。失敗を恐れず、面白いと感じたことに積極的に挑戦し、継続することで道が開けます。

新しい分野で活躍する秘訣

まだ確立されていない新しい分野には、既存の専門家が少ないため、チャンスにあふれています。高いモチベーションと「なんとかしよう」という強い意志があれば、後発でも十分に活躍できる可能性があるので、可能性を狭く考えすぎないことが大切です。

メッセージ

僕からのメッセージとしては、「とりあえずやってみよう」というところが今日のまとめですね。全然違う分野で今は仕事してますし、領域としても結構チャレンジングなことですし、会社としても日本の人だけじゃないグローバルな環境ですが、それらも全てまずはやってみようの気持ちがあったからこそ、今のキャリアに通じています。なのでみなさんも「とりあえずやってみよう」の気持ちを持っていただけると嬉しいです。

q&a

Q1

Sakana AIの研究のお話をよく伺うのですがどのどのようにしてマネタイズされているのでしょうか?

Sakana AIは研究を重視していますが、企業としてマネタイズも重要です。現在はビジネスチームが中心となり、マネタイズできる領域を探索中です。具体的なプロダクトや販売戦略はまだ探索段階ですが、Sakana AIの研究力を活かし、ビジネスチームとの連携を通じてマネタイズを目指しています。まだ創業2年のスタートアップなので、理想通りに進んでいない部分もありますが、社内一丸となって取り組んでいます。

Q2

大学院の学科と研究で行っていることが異分野で、就活において受けられるか不安です。分野に飛び込む際に会社からはどのように反応されましたか?

異なる分野からの挑戦は、採用側も理解しています。私の場合は、薬学のバックグラウンドに加えて、PhD取得やKaggleでの実績などが評価されました。特にSakana AIでは、多様な経験を持つ人材が求められる傾向にあると感じました。大学での研究内容が直接企業で活かせるとは限りませんが、研究を通して培った思考力や問題解決能力はどこでも役立ちます。一生懸命取り組んできたことは、きちんと評価してもらえると思います。

Q3

企業において技術を学会に発表するメリットはどこにあるのでしょうか?

学会は、研究成果を発表するだけでなく、活発なディスカッションや交流の場でもあります。最新の研究動向や他の研究者のアイデアを知ることができ、フィードバックを得ることもできます。Sakana AIはグローバルなコミュニティを重視しており、学会での発表を通じて最先端の情報を交換し、研究活動に活かしています。

Q4

研究者に向いている人、向いていない人の特徴などありますか?

研究者に向いていると思うのは、自分の中に仮説や独自のワールドを持っている人です。自分の興味に基づいて研究を深め、新しい発見を楽しむことができる人が多い印象です。逆に、論文を書くことだけが目的になってしまうと、苦しいかもしれません。研究を楽しんでいる人は、研究の世界観を持っていると感じます。

Q5

優秀な研究者の共通点を伺いたいです。

やはり、自分の世界を持っている人が共通していると思います。集中力が高く、仮説を立てて実行に移すスピードが速いです。自分のやりたい領域や信念を持っている人は、優秀だと感じることが多いです。

Q6

社会人ドクターというキャリアに対する井上さんのご意見を聞かせください。

私自身は社会人ドクターの経験はありませんが、周囲にもあまりいなかったので一概には言えません。会社の協力や家庭の理解など、多くのサポートが必要になるため、大変だろうとは思います。しかし、PhDを取得すること自体は、キャリアにおいて非常に有益だと思います。仕事の幅が広がったり、問題へのアプローチが洗練されたりすると感じています。

Q7

Sakana AIでの典型的な1日の過ごし方を教えていただきたいです。

比較的シンプルで、朝起きて研究、食事、研究、食事、寝るという感じです(笑)。大学の研究室に近いイメージかもしれません。普段は自宅で研究することが多いですが、週に2回程度出社日があり、オフィスで他のメンバーと交流したり、ミーティングを行ったりします。

Q8

チームだったりとか他メンバーとの連携とか、あとは研究テーマをどういう風にこう決めて、それを進めてるのかっていうとこに関してはどんな感じですか?

研究テーマは、上司や社長とのディスカッションを通じて生まれることが多いです。新しいアイデアがあれば、自由に実験してみて、その結果を共有し、フィードバックを得ながら進めていきます。比較的フラットな雰囲気で、アイデアも自然に発生し、柔軟に進めていくスタイルです。

Q9

大学で行う研究活動と企業で行う研究活動はどのような違いがありますか?

大学での研究に近いと感じています。特にSakana AIでは、ビジネスに直接結びつかない面白いアイデアも積極的に試すことを推奨しています。違いとしては、資金力や研究スピードかもしれません。スタートアップなので、時間をかけるよりもある程度のコストをかけてでもスピードを重視する傾向があるかもしれません。

Q10

入社時にDMで連絡をされたとおっしゃってましたが、SNSの活用法について教えていただきたいです。

特にSNSの活用法を意識しているわけではありませんが、TwitterやLinkedInを使っています。チャンスがあれば、DMで連絡を取ってみるのも良いかもしれません。失礼のないように誠意をもって連絡することが大切です。アドバイスをくれる人もいると思います。SNSでは攻撃的にならないことも重要だと思います。

Q11

AIモデルの開発で最も時間のかかる作業や大変なことを教えていただけますか?

最初に立てた仮説がうまくいかないことが多いため、それを検証するのに時間がかかります。AIモデル特有の難しさとしては、再現性の問題があると思います。実験デザインをしっかりと考え、無駄な実験を減らすことが重要です。

Q12

新しいチャレンジ、チャレンジングな環境や優秀な人が多い環境に飛び込むのに恐怖感はありませんでしたか?

恐怖感がないわけではありませんが、不安よりも新しい環境で働くことへのワクワク感の方が強いことが多いです。もしうまくいったらどうなるかというポジティブなイメージを持つようにしています。恐怖感が強すぎる場合は、一度立ち止まって考え直すことも大切かもしれません。

Q13

Sakana AIでの業務では、どの程度生成AIを活用していますか?

現在、研究を進める上で積極的に生成AIを活用しています。文章作成やコーディングはもちろん、研究のアイデア出しにも利用しています。ただし、AIの結果を鵜呑みにするのではなく、研究的な視点でその可能性や限界を見極めるようにしています。